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2026/09/18(金)

選択肢が増えた時代に、あえて「建てる」を選ぶということ

選択肢が増えた時代に、あえて「建てる」を選ぶということ

こんにちは、Kizuki(小泉木材)代表の小泉です。

住まいの選択肢は、この数年で大きく広がりました。

賃貸住宅で身軽に暮らす。
中古住宅を購入し、リノベーションする。
規格化された住宅を建てる。
大手ハウスメーカーに依頼する。
そして、私たちが目指すような地域工務店と、一から注文住宅をつくる。

どの選択肢にも、それぞれの良さがあります。
家族構成や働き方、予算、住みたい場所、これからの人生設計によって、ふさわしい答えは変わります。どれか一つだけが正しく、それ以外が間違っているという話ではありません。
だからこそ、最近、あらためて考えることがあります。

これだけ多くの選択肢がある時代に、なぜ人は、あえて注文住宅を建てるのでしょうか。
私は、この問いの中に、これからの家づくりを考える上での大切な本質があるように思っています。

 

選べる時代は、迷える時代でもある

 

 

選択肢が増えることは、本来、豊かなことです。
けれど、選択肢が増えれば増えるほど、私たちは何を基準に選べばよいのか、分からなくなることがあります。

そして迷ったとき、人はつい、比較しやすいものを判断基準にします。

価格。
坪単価。
広さ。
性能の数値。
工期。
保証期間。
口コミや評価。

もちろん、どれも大切です。
住宅は大きな金額を伴うものですから、定量的な指標を確認せずに判断することはできません。私たちが手がける家づくりでも、性能や耐震性、耐久性、維持管理性を、曖昧な感覚ではなく、可能な限り数値と根拠で示すことを大切にしています。
しかし、数値だけでは答えられない問いもあります。

この家で、どのような朝を迎えたいのか。
家族と、どのような距離で暮らしたいのか。
子どもたちに、どのような記憶を残したいのか。
10年後、30年後、この家をどのように感じていたいのか。

それらは、価格表や性能表だけでは測ることのできない、定性的な価値です。
住まいを選ぶということは、建物の条件を選ぶことだけではありません。
これから家族が重ねていく時間を、どのような場所に預けるのかを選ぶことでもあるのだと思います。

 

注文住宅は、まだ存在しない暮らしをつくる

 

賃貸住宅には、身軽さがあります。
中古住宅のリノベーションには、今あるものを生かす価値があります。
規格住宅には、合理性や分かりやすさがあります。

それぞれに、明確な役割があります。
その上で、注文住宅にしかできないことがあるとすれば、それは、まだこの世に存在していない、そのご家族だけの暮らしをつくることだと思います。
今の暮らしを、そのまま建物に置き換えるだけではありません。

これまで、どのような時間を過ごしてきたのか。
現在、何に喜び、何に不自由を感じているのか。
そしてこれから、どのような家族でありたいのか。

まだ言葉になっていない想いや、本人たちも気づいていない大切なものを、一つひとつ見つけながら、空間にしていく。
それが、私たちの考える注文住宅です。

土地を読み、光や風を読み、周辺の景色や街との関係を考える。
家族それぞれの居場所をつくりながら、互いの気配が自然に感じられる距離を考える。
今だけではなく、子どもが成長した後や、家族のかたちが変わった後の暮らしまで想像する。

家を建てることは、今ある要望を並べることではありません。
これからの人生に起こり得る変化を想像し、その変化を受け止められる場所をつくることです。

 

手間をかけることに、意味がある

 

注文住宅を建てることは、決して簡単ではありません。
土地を探し、資金計画を考え、何度も打ち合わせを重ねます。
図面を描いては見直し、ときには最初から考え直すこともあります。
時間も、労力もかかります。
完成品の中から選ぶ方が、早く、分かりやすい場面もあるでしょう。

それでも、あえて建てるという選択をされる方がいます。
それは、単に細かなこだわりを実現したいからではないと思うのです。
自分たちは、これからどのように生きていきたいのか。
家族にとって、本当に大切なものは何なのか。
何を残し、何を手放すのか。

家づくりの時間を通して、ご家族がそれらの問いに向き合っているのだと思います。
すぐに答えを出すのではなく、対話を重ねながら、自分たちなりの答えを見つけていく。
その過程そのものにも、注文住宅を建てる意味があります。

家が完成したとき、そこにあるのは、単に希望する間取りが形になった建物ではありません。
家族が何を大切にするのかを、時間をかけて選び取った結果なのです。

 

定量と定性を、掛け合わせる

 

私は、住宅の価値を「定量と定性の掛け算」で考えています。

断熱性能が高い。
耐震性能が高い。
光熱費を抑えられる。
長く使い続けられる。
適切な維持管理ができる。

こうした定量的な価値は、快適な暮らしの土台として欠かすことができません。
けれど、性能の数値を高めること自体が、家づくりの目的ではありません。

冬の寒さや夏の暑さを我慢せずに暮らせる。
家の中の温度差が小さくなり、家族が自然と同じ場所に集まる。
光熱費への不安が減り、暮らしに少しの余白が生まれる。
安心できる場所があるから、外で新しいことに挑戦できる。

定量的な性能が、日々の安心や、家族の関係、心の余白につながっていく。
そこまでつながって、初めて住宅の性能は、暮らしの価値になるのだと思います。
反対に、どれほど美しい家であっても、寒さや暑さを我慢しなければならず、将来の修繕に大きな不安を抱えるのであれば、豊かな暮らしを長く支えることはできません。
定量だけでも、定性だけでも足りません。

確かな性能と、心に残る暮らし。
合理性と、情緒。
現在の快適さと、未来への責任。

その両方を最大化し、掛け合わせていくこと。
それが、これからの住宅に必要な価値だと考えています。

 

長い時間を、暮らしの中に織り込む

 

 

注文住宅の価値は、完成した瞬間だけでは測ることができません。

子どもが生まれる。
成長し、やがて独立する。
働き方が変わる。
親と暮らす日が来るかもしれない。
夫婦二人の生活に戻る日も来る。

家族も、暮らしも、時間とともに変わっていきます。
すべての変化を、建築の時点で完全に予測することはできません。
しかし、変化することを前提に、家をつくることはできます。

一つの用途に固定しすぎない。
暮らしに応じて使い方を変えられる余白を残す。
直しながら、手を入れながら、長く住み続けられる構造にする。
将来、別の家族が暮らすことまで想像しておく。

目の前の要望だけを満たすのではなく、その先にある時間まで設計する。
家を建てるという選択は、時間軸を長く取って考えれば、決して感情だけの選択ではありません。
家族の変化と、建物の寿命と、将来必要となる費用まで含めて考える、極めて合理的な選択でもあるのです。

 

100年後の子どもたちへ、何を渡すのか

 

私たちの志は、
「100年後の子どもたちに責任を持ち、豊かにする」
ことです。

100年先の暮らしを、正確に予測することはできません。
けれど、自分たちがつくったものが、次の世代にどのような影響を与えるのかを考えることはできます。
すぐに壊してしまうことを前提とした家ではなく、手を入れながら使い続けられる家をつくる。
将来の修繕や更新を考え、直せる構造と材料を選ぶ。
完成時の情報だけでなく、その後の点検や改修の記録を残していく。

私たちが、一棟一棟の住宅履歴情報を蓄積しているのも、そのためです。

誰が、いつ、どのようにつくったのか。
どのような点検を行い、どこを修繕したのか。
これから、どのような手入れが必要なのか。

家の来歴が正しく引き継がれることで、建物は次の世代にも安心して手渡すことができます。
家を長く残すために必要なのは、性能だけではありません。
そこに暮らす人が、この家を大切にしたいと思えること。
直しながらでも、次の世代へ渡したいと思えること。
そして、次に住む人が、その家に新しい価値を見いだせること。
性能によって物理的な寿命を延ばし、愛着によって社会的な寿命を延ばしていく。
その両方があって、初めて家は、100年という時間に向かって歩き始めるのだと思います。

 

私たちが「彼ら」と呼ぶ理由

 

私たちは、完成し、ご家族のもとへ送り出す家を、親しみを込めて「彼ら」と呼んでいます。
家を、単なる商品として考えていないからです。
「彼ら」は、完成した日が最も美しいのではありません。

家族が暮らし始め、家具が置かれ、床に傷がつき、柱に子どもの背丈が刻まれていく。季節を重ね、家族の記憶を抱えていくことで、その家にしかない表情が生まれていきます。

嬉しい日も、苦しい日もあるでしょう。
家族の会話や笑い声、ときには言葉にならない感情を、静かに受け止めながら、暮らしに寄り添い続ける。

私たちが家に人格を重ねるように「彼ら」と呼ぶのは、その存在が、ご家族の人生とともに育っていくものだと考えているからです。

家をお引き渡しすることは、私たちの仕事の終わりではないのです。
「彼ら」が、その責務を全うする日まで、手を入れ、見守り、次の世代へつないでいく。
そこまでが、私たちの家づくりです。

 

結びに

 

選択肢が増えた時代に、迷うことは決して悪いことではありません。
むしろ、迷うからこそ、自分たちが本当に大切にしたいものに気づけるのだと思います。

どこに住むのか。
どのような家を選ぶのか。
建てるのか、建てないのか。

どの選択をするにしても、大切なのは、目の前の分かりやすさだけで決めるのではなく、その先にどのような時間が続いていくのかを想像することです。
その上で、あえて「建てる」という選択をされる方がいる。
その選択の背景には、自分たちの暮らしを、自分たちの意思でつくりたいという願いがあるのだと思います。

私たち<Kizuki>は、「未来の記憶を、築く家」というコンセプトのもと、その願いに真摯に向き合っていきます。

まだこの世に存在していない、ご家族だけの暮らしをともにつくること。
確かな性能と、心に残る時間を掛け合わせること。
そして、その家が次の世代にも大切にされるよう、長く見守り続けること。

選択肢が増え、本当に大切なものが見えにくくなった時代だからこそ、私たちは、何のために家を建てるのかを問い続けたいと思います。

100年後の子どもたちの記憶に残る家を、これからも一棟ずつ、丁寧に築いていきます。

 

 

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