2026/08/28(金)
水害後の48時間。床を剥がす前に知ってほしいこと

こんにちは。Kizuki(小泉木材)代表の小泉です。
8月27日、石川県から富山県にかけての地域が、線状降水帯による記録的な大雨に見舞われました。
富山県氷見市と石川県羽咋市では、いずれも12時間降水量が300ミリを超え、観測史上1位を更新しました。
両県の各地では、河川の氾濫や道路の冠水、住宅への浸水、土砂崩れなど、大きな被害が発生しています。
まず、今回の大雨によって被害に遭われた皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。
まだ被害の全容が見えていない地域もあると思います。一日も早く安全が確保され、少しでも早く日常を取り戻されることを願っています。
そして、こうしたニュースを見るたびに思うことがあります。
水害は、もう決して「どこか遠くの地域で起きる災害」ではないということです。
近年、線状降水帯や局地的な豪雨によって、これまで大きな水害を経験してこなかった地域でも、短時間のうちに住宅が浸水する被害が起きています。
だからこそ私たち工務店も、「水害を受けにくい家をどうつくるか」だけではなく、「もし、自分たちがお引き渡しした家が水害に遭ったら、その後どうやって家を守るのか」まで考え、準備しておかなければならないと思っています。
全国で起きた災害の経験を、地域を越えて共有する
私が理事を務める一般社団法人 住宅管理・ストック推進協会、通称「住管協」は、価値のある住まいを未来へ引き継いでいくため、住宅の維持管理や家守りについて全国の仲間と活動している組織です。
現在は九州から関東まで、各地の販売店や地域事業者と連携協定を結び、地域を越えて助け合える体制づくりを進めています。
本来であれば、蓄積されない方がよい知見なのかもしれません。
しかし残念ながら、日本各地で実際に水害が発生し、会員や連携先の地域でも、多くの住宅が被害に遭ってきました。
そのたびに、
何を最初にすべきだったのか。
何をしてはいけなかったのか。
どのように乾燥させれば住宅を守れるのか。
どの段階で解体を判断すべきなのか。
実際の復旧に向き合ったからこそ得られた知見が、少しずつネットワークの中に蓄積されてきました。
一つの地域で得た経験を、その地域だけのものにしない。これも、全国で連携する意味の一つだと思っています。
2022年、2023年と水害を経験した磐田の地域から
今回、水害後の住宅復旧について詳しい情報を共有してくださったのが、静岡県磐田市にある株式会社カワイの川合伯員社長です。
川合さんもまた、住管協でともに活動する仲間の一人です。
株式会社カワイが拠点を置く磐田市では、2022年9月の台風15号、そして2023年6月の台風2号による大雨で、敷地川の堤防が2年連続で決壊しました。
2023年にも市内各地で住宅の浸水被害が発生し、流域は大きな被害を受けています。
二度の水害を経験した地域では、雨への向き合い方そのものが変わりました。
大雨の予報が出れば、雨雲レーダーや河川の状況を確認する。農機具や備蓄品を高い場所へ移す。
そうした備えが、日常の中に組み込まれるようになっています。
そして川合さん自身も、以前から一貫して、次の考えを掲げています。
「商売を通じて、強い街づくりに貢献する。」
株式会社カワイを拠点とするNPO法人大工村では、地域の大工や工務店とともに、防災活動や水害対策にも取り組んでいます。
災害が起きてから助けるだけではなく、被害そのものを少なくし、災害後も地域で暮らし続けられる環境をつくる。
そこには、地元を守ることへの強い意識と覚悟があるのだと思います。
私は、この考え方にとても共感します。
地域工務店の役割は、建物をつくることだけではありません。
その地域に暮らす人たちの住まいを、災害が起きる前から、そして起きたあとまで守ること。それもまた「家守り」の仕事だと思っています。
今回、川合さんから共有していただいた水害後の住宅復旧に関する知見を、私たち自身の備えとして整理しました。
同時に、ぜひお施主様や地域の皆さまにも知っておいていただきたいと思い、このコラムを書くことにしました。
水が引いたら、すぐ床を剥がす。それが正解とは限らない
浸水した住宅を見ると、「早く床を剥がして、床下の水や泥を全部出さなければ」と思うのではないでしょうか。
私自身も、何も知らなければそう考えると思います。
ところが、共有いただいた情報や、そこからたどった各地の記録を読み解いていくと、必ずしもそれが最初に行うべきことではないと分かります。
霧島市議会副議長の山口ひとみさんが、実際の被災地で得た経験と専門家の知見をまとめた記事でも、次の考え方が紹介されています。
「床上・床下浸水にかかわらず、原則として床を安易に剥がさず、まず送風によって構造材である木材を乾燥させる。」
もちろん、これは絶対に床を剥がしてはいけないという意味ではありません。
大量の土砂が室内まで流入している場合や、長時間濡れた状態が続き、床材そのものが大きく傷んでいる場合などは、解体が必要になることもあります。
重要なのは、泥を取り除くことそのものを最初の目的にするのではなく、住宅を傷めないために、まず何を乾かすべきなのかを考えることです。
守るべきは、家を支えている木
水害後の乾燥で大切なのは、大きく二つあるとされています。
一つは、住宅を支えている構造材、特に木材を早く乾燥させること。
もう一つは、床下で発生するカビの胞子などを生活空間へ広げないことです。
床を大きく剥がしてしまえば、一見すると乾きやすくなるように思います。
しかしその一方で、床下の汚染された空気が室内へ大量に入り込む可能性があります。
また、大規模な災害では、一度に何十棟、何百棟もの住宅が被害を受けます。大工さんも、材料も、設備も、一気に不足します。
床を全面的に剥がしてしまったものの、復旧工事をしてくれる職人が数か月来られない。そのような状況になれば、その家で生活すること自体が難しくなってしまいます。
だからこそ、まずは生活空間をできるだけ残しながら、床下へ送風して構造材を乾燥させる。乾燥させながら、保険や罹災証明、公的支援の手続きを進め、本格的な復旧工事の準備をする。一見すると遠回りに見える方法が、結果として家と暮らしを早く立て直すことにつながります。
特に重要なのが「48時間」
そして、水害後の対応では「時間」が重要です。
山口ひとみさんの記事で紹介されている専門家の知見では、浸水から48時間を過ぎると、カビが急速に増殖するリスクが高くなるとされています。
そのため、水が引き、安全が確認できた段階から、できるだけ早く排水、清掃、そして送風による乾燥に着手することが重要になります。
ここで大切なのは、「48時間以内に全部直す」という話ではありません。
早く「復旧工事」をするのではなく、早く「正しい乾燥」を始める。
ここを間違えないことです。
災害直後は、目の前に泥や水があれば、どうしても「全部取り除きたい」「全部剥がしたい」と考えてしまいます。
しかし、慌てて壊してしまう前に、一度専門家に相談してほしい。
それが今回、一番お伝えしたいことです。
万が一、自宅が浸水したら
もし、ご自宅が水害に遭ってしまったとき。
まず優先するのは、当然ながら人の安全です。
水が残っている建物には、漏電や転倒、汚水など、さまざまな危険があります。安全が確認されてから、次の対応へ進みます。
その際、まず覚えておいていただきたいのが、片付ける前に被害状況を写真で残すことです。
・建物全体。
・各部屋。
・浸水した高さ。
・壊れた設備や家財。
できるだけ記録してください。
罹災証明や保険の手続きを進める際に、重要な資料になります。
そしてもう一つ。
大きな解体を始める前に、その家を建てた工務店、あるいは建築の専門家へ連絡してください。
・床下まで水が入っているのか。
・壁の中まで濡れているのか。
・断熱材はどうなっているのか。
・構造材はどの程度濡れているのか。
どこを残し、どこを開け、どこへ風を送ればよいのか。
家のつくりによって、その判断は異なります。
また、乾燥したかどうかも、見た目だけでは判断できません。木材などの含水状態を測定し、数値を確認しながら復旧へ進むことが重要です。
私たちも、お引き渡し後の災害を想定して準備する
今回、川合さんから共有いただいた情報を受け、私たち小泉木材でも、水害発生時のお施主様への対応をあらためて整理しています。
どのように初動するのか。
どのように床下を確認するのか。
どのように送風し、乾燥させるのか。
どの段階で解体を判断するのか。
必要となる機材や測定方法。
そして、自社だけでは対応しきれない規模の災害になったとき、住管協のネットワークとどのように連携していくのか。
災害が起きてから、一から調べていては遅い。だからこそ、平時に準備しておく必要があります。
その第一歩として、私たちは今回、200φのダクト式送風機を2組備えました。
それぞれ、1棟への初動対応を想定した一式です。決して多い数ではありません。
けれど、被害が起きてから「何が必要なのか」「どこから手配するのか」を調べ始めるのと、連絡をいただいたときにすぐ動かせる機材が手元にあるのとでは、初動の速さが違います。
水害後、とりわけ最初の数日間において、その初動の差は、構造材を早く乾燥させ、家の傷みを抑えられるかどうかに大きく関わります。
知識として知っているだけでは、家を守ることはできません。必要なときに、実際に動ける状態にしておく。
そこまで準備しておくことも、お引き渡しした家を守り続ける地域工務店の責任だと、私たちは考えています。
そして、これは工務店側だけの話ではありません。
お施主様にも、「もし水害に遭ったら、まずどこへ連絡すればよいのか」を知っておいていただく。これも、大切な防災だと考えています。
私たちがお引き渡しした住宅で、万が一このような被害が起きた場合には、まず私たちへご連絡ください。
その家をどうつくり、床下がどうなっているか。どこに断熱材が入り、構造材がどう納まっているか。
それを知っている私たちだからこそ、できることがあります。
地域工務店だからこそ、できることがある
大手企業には、大手企業だからこそできることがあります。
一方で、地域工務店だからこそできることもあると思っています。
災害が起きたときに、「あの家には、あのご家族が住んでいる」と顔が浮かぶこと。その家の図面があり、構造を知っていること。そして、車で駆けつけられる距離にいること。
さらに、一社では対応できないときには、地域を越えた仲間と助け合うこと。
それが、地域に根を張って仕事を続ける意味の一つだと思います。
家をつくる。
点検する。
直す。
そして、万が一災害に見舞われたときには、その家と暮らしをもう一度立て直す。
引き渡し後も、その家がそこにある限り関わり続ける。
私たちは、それを「家守り」だと考えています。
今回の石川県・富山県での水害を見ても、災害はいつ、どこで起きるか分かりません。
だからこそ、起きてから慌てるのではなく、起きる前に知っておく。
非常食や水を備えることと同じように、「自分の家が浸水したら、誰に連絡し、どの順番で家を守るのか」も、ぜひ防災の一つとして覚えておいていただければと思います。
そして私たち工務店も、その連絡を受けたときにきちんと応えられるよう、平時から準備を続けていきます。
今回の水害後の乾燥方法については、住管協で連携する株式会社カワイ・川合伯員社長から共有いただいた情報と、霧島市議会副議長・山口ひとみさんが公開されているシリーズ「浸水後、家と暮らしをどう守るか ― 霧島で助けてもらった知恵を、次の被災地へ。―」を参考にしています。
被災地で得られた大切な知見を公開し、次の被災地へつないでくださっている皆さまに、この場を借りて感謝申し上げます。
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